真空ポンプの分類方法はいろいろありますが、まずはウェットポンプとドライポンプに大別できます。
気体輸送式真空ポンプは気体を吸い込むための吸気口と気体を排出するための排気口があります。真空容器の気体は吸気口から真空ポンプに入り、排気口から排出されます。つまり、真空ポンプの中を気体が通過します。
ウェットポンプ
気体が真空ポンプ内を通過する際に、水や油などの液体と接触するポンプの事をウェットポンプと言います。
気体の流れる流路の事を一般的に「接ガス部」と言います。ウェットポンプは接ガス部に作動油があるポンプと言えます。ドライポンプの場合には接ガス部に作動油がないポンプと言います。
水や油を用いる理由は真空ポンプ内の密閉を完全にするために用いられています。水や油の事を作動液あるいは作動油と言います。作動油には密閉を完全にするため以外にも下記の効果があります。
摩擦の軽減 : 油膜を形成することによる摩擦の低下
摩耗の低減 : 油膜を形成することにより、部品同士の直接接触の低減
冷却 : 摩擦熱・圧縮熱を吸収し、焼き付きの防止
錆止め : 油膜が金属表面を覆うことによる防錆効果
作動油の事を真空ポンプ油とも言います。真空ポンプ油に求められる性能としては上記以外に異物の除去や耐酸化性などが求められます。
真空ポンプ油は空気を排気することが多く、空気中の酸素が真空ポンプ油と反応して、酸化による劣化があります。新品の真空ポンプ油は透明なのですが、酸化による劣化で黒く変色します。真空ポンプ油は定期的に色を観察して、黒くなる前に交換を行いましょう。
ウェットポンプの構造上、排気口から真空ポンプ油が微粒子となって排出されます。この微粒子をオイルミストと言います。真空ポンプとセットで準備するようにしましょう。
また、真空ポンプ油の蒸気圧は低いですが、油蒸気が吸気口から真空配管を伝って、真空容器に少なからず到達します。この状況を一般的に油汚染と言います。
ウェットポンプは構造が簡単で、同じ排気速度のドライポンプと比較すると小型で、価格もドライポンプと比較すると安価ですが、油汚染の可能性と、オイルミストの排出があります。
ドライポンプ
ドライポンプは気体の流れる流路に作動液がありません。接ガス部に作動油がないために、油蒸気によるチャンバーの汚染や、オイルミストが排気口から排出されることはありません。
一番の利点は真空ポンプ油がないので、定期的な補充、交換が不要になります。真空技術は半導体を製造する工程で使用されており、半導体を製造するうえで、危険なガスや首足性のガスを排気することがあり、ウェットポンプでは真空ポンプ油の劣化が著しく早く、高頻度の交換となってしまうためにドライポンプが必要となりました。半導体製造ラインには真空ポンプが何百台と必要であり、真空ポンプ油を高頻度に交換すると交換する時間、真空ポンプ油の費用、真空ポンプ油の廃棄費用が掛かります。ドライポンプに変更することでこれらの費用が軽減できます。
接ガス部分に真空ポンプ油を用いていないドライポンプですが、ギア同士の潤滑を目的として真空にならない箇所で潤滑油あるいはグリースを用いています。
ドライポンプは気体が流れる経路にはオイルは使用していないが、気体が流れない経路で潤滑を目的としてオイルが使用されています。