真空ポンプにはいろいろな種類があります。
本投稿では、揺動ピストン型油回転真空ポンプについて解説します。
揺動ピストン型油回転真空ポンプは大気圧から数Paまで使用できるポンプになります。分類としては低真空から中真空で使用できるウェットタイプのポンプになります。
特徴
大気から数Paまで使用できるウェットタイプの真空ポンプになります。構造上、異物に強く堅牢という特徴があります。
設計上、小さくすることが困難なために、排気速度は大きいものが多く、使用する真空ポンプ油も多い傾向にあります。また、回転体が偏心しているために振動が大きいポンプです。
用途
異物に強い、排気速度が大きという事から、自動車産業で使用されることが多く、真空熱処理炉、真空ロー付炉、真空焼結炉、真空浸炭炉などで使用されています。
真空熱処理炉とは真空でできることの酸素が少なくなるで解説した特徴を活かした用途になります。真空中で焼き入れ、焼き戻し、焼きらなし、焼きなましを行うことで材料の機械的性質の改善を行うことができます。真空中で行うことで表面が酸化することがありません。
真空熱処理炉は主に自動車等に使用されるギア、シャフトなどの機械部品で付加価値の高い部品に行われます。
真空ロー付炉は真空中でろう付を行う装置になります。低融点の金属粉とバインダーと呼ばれる粘性の高い油脂を混ぜたものを金属接合面に塗布し、真空中で加熱します。加熱することによって低融点の金属が溶けて金属同士を接合します。バインダーは真空中で蒸気となり、真空ポンプによって排気されます。真空焼結炉もほぼ同じ原理となります。
真空熱処理炉ではギア、シャフトを加工した際の切り子を排気することがあり、異物に強い堅牢なポンプが使われることが多いです。
真空ロー付炉では真空ポンプ内に混入したバインダーがポンプ内部で冷えて固体に戻ったり、金属粉を排気することがあるので、堅牢で止まらない真空ポンプである必要があります。
※排気したバインダーは真空ポンプ油と混ざり、真空ポンプ油が劣化します。数バッチの処理で真空ポンプ油を交換することになります。
真空中で熱処理やロー付を行う目的としては空気中の酸素と反応して酸化しないために、後工程にて洗浄が不要だったり、光輝処理が不要などのメリットがあります。
揺動ピストン型油回転真空ポンプの構造
揺動ピストン型油回転真空ポンプの構造を下記に示します。
大きな偏心体(ローター)が回転しているのがわかります。揺動ピストン型油回転真空ポンプの振動が大きい原因になります。設置の際にはアンカーボルトで床に固定する必要があります。振動が大きいというデメリットがりますが、一方で異物を含んだ気体の排気に強いというメリットがあります。少量の異物ならば、ローターとケーシングですり潰してしまいます。また、揺動ピストン型油回転真空ポンプは圧縮比を大きく取れるので、排気速度が大きいポンプが多いです。
使用上の注意点としては冬季において、起動困難になる場合があります。これは圧縮比が大きいことと、使用している真空ポンプ油の粘度が冬季では高くなってしまうということで発生します。冬季には冬季用のオイルを使用する事をお勧めします。
真空容器とつながっている吸気口から吸入した気体はローターとケーシングで囲まれた空間に入ります。ローターが回転することで、容積が徐々に小さくなり、最小になったことろで、排気弁から排出されます。排気口は大気圧になっていますので、吸気口で吸入した気体を圧縮して、大気圧以上にならないことには排気弁から排出できません。