真空屋の独り言

アナログ計器の良いところ

梅雨に入ってちょっとジメジメした日に電話が掛かってきました。

客先担当者

いつもは「ぎゅーん」ってピラニ真空計の針が3000Paから10Paまで行くんやけど、ここ数日は「ぎゅーん」じゃなくて、「だらだら~」って針が動くんやけど、何でですかね?

それは昨年、秋に真空排気装置を納入したA社担当者からの素朴な質問の電話でした。その真空排気装置はちょっと特殊で多孔質のセラミックが真空容器内にあるのが特徴的でした。デジタル表示の真空計が主流になりつつあったのですが、担当者の強い要望によりアナログタイプの真空計を使用しています。

真空の学校

お久しぶりです。お元気ですか?
「ぎゅーん」じゃなくて、「だらだら~」と針が動くのは朝一あるいは午前中の数バッチではないでしょうか?

客先担当者

そうそう、そんなんや。午前中の数バッチだけ「だらだら~」ってなるんです。その数バッチも、針の動きを見てると、だんだん良くなっていくんです。5月位からそんな感じになってきて…

真空の学校

いくつか確認をさせて頂いても良いでしょうか?
①「だらだら~」となってきたのは5月位からですね?
②運用で夜間は装置を停止していますが真空容器のは大気解放ですか?

この電話を受けて、原因は水分だと考えました。犯人は多孔質のセラミックが真空容器内にあることと、夜間の装置停止中は大気解放しているという事です。
秋から春にかけては天候にもよりますが、湿度が低い状態ですが、梅雨から夏にかけては湿度が高くなります。
湿度が高くなると、夜間の大気解放中に多孔質のセラミックが水分を吸収します。朝一で真空に排気すると、吸収された水分が気体となって放出されるために通常よりも排気時間がかかっているという事です。水分というのは吸着エネルギーが高いので1回だけでは水分が抜けきらずに数バッチはこの様な状態が続きます。

真空の学校

解決方法として、下記を提案します。
夜間もチャンバー内は真空保持として頂くか、あるいは大気解放時に窒素で大気圧に復圧し、そのままベントバルブを閉にして下さい。

上記の方法は水分が多孔質のセラミックへ吸収されないようにすることになります。真空保持が理想ですが、排気系の構成によっては油汚染の懸念が考えられます。そのためにプランBとして、窒素ガスでの復圧し、真空容器内を窒素ガスで満たした状態にすることで、多孔質セラミックへの水分の吸収を防ぎます。

客先担当者

ありがとう。ほな、装置停止時は真空保持するような運用に変更します。悪いけど、シーケンサーのラダーの変更をお願い致します。

真空の学校

わかりました。修正版のラダーを送りますので、シーケンサーへの転送はお願いしますね。

ラダーを送ってから数日後、客先担当者から問題が解決できたとの連絡があり一段落。

アナログの計測機器の場合、針の動きで装置のコンディションがわかることもあります。今回は「ぎゅーん」が「だらだら~」に変化したことで気付くことができました。この様に微妙な変化がわかるのがアナログ表示の良いところです。


※油汚染の可能性…油回転真空ポンプを排気系として使用していて、真空容器~油回転真空ポンプの吸気口間にバルブがない場合、吸気口から油分がチャンバーへ蒸発してしまい、チャンバーが油分で汚染される。